小さなお子さんの英語教育について考えている保護者の方は、インターネットで検索をしても混乱するかもしれません。
なぜなら、幼児期の英語教育のメリットや重要性を述べるサイトもあれば、弊害や意味のなさを主張するサイトもあるからです。ここでは保護者の方に向けて、改めて英語教育の重要性と、弊害などが主張される理由について解説します。
幼児期における英語教育の重要性
ベネッセの調査によれば、2018年時点で私立幼稚園の62.4%が英語教育を行っており、そのほかの幼稚園や保育園なども英語教育を行っている施設は2012年と比較して増加傾向にありました。
2020年の教育改革によって、小学校での英語教育が必修化された昨今、幼児期に英語教育を行う施設はさらに増加していることが推測されます。では、幼児期の英語教育にはどのようなメリットや重要性があるのでしょうか。
「英語耳」「英語脳」を獲得できる
幼児期に英語に触れることのメリットには、英語の発音を聞き分けられる「英語耳」が発達しやすいということが挙げられています。たとえば、「rとlの区別」などは日本人には聞き取りが難しいですが、子どもであれば比較的スムーズに聞き取りを習得しやすいとされています。
また、英語でコミュニケーションをするときは英語で考える「英語脳」も重要で、早期の英語教育は、「英語脳」の獲得に役立つとされています。
「英語耳」と「英語脳」があれば、将来さらに英語を学習する際にもよりスムーズに学習ができるでしょう。自動翻訳などの技術革新も目覚ましいですが、海外の人々との密接なコミュニケーションでは人間同士がやり取りをするのがまだ一般的です。
グローバル化が進む時代に、「英語耳」と「英語脳」を身に付ける機会を与えることは、子どもの将来の選択肢を増やすことにつながります。
英語の学習時間を確保できる
幼児期から英語を学習すると、トータルでの英語の学習時間を確保しやすいのもメリットです。日本人が英語を習得するには、2000~3000時間が必要とされていますが、通常の日本の学校教育では英語の学習時間は1000時間未満です。
足りない学習時間は自分で補うほかありませんが、幼児期から英語学習を始めれば、その分学習時間を増やせます。年齢を重ねると、他にやることが増え、英語の学習時間を確保するのは難しくなっていきます。その点でも、幼児のうちに英語学習を始めるのは重要なのです。
脳の発達によい影響を見込める
幼児期の英語教育が脳の発達によい影響を与えることは複数の論文で示唆されています。バイリンガルの子どもは1つの言語のみを扱うモノリンガルの子どもよりも、脳の「実行機能系」の発達が優れているとされています。「実行機能系」とは複雑な課題を進める際に、思考や行動を制御する認知システムです。
また、日本の論文によって、幼児期の英語学習と他者理解の能力は関連するとされています。実際のところ、日本語を母語とする幼児の英語教育が脳にもたらす影響についてはさらに研究が必要ではありますが、現状の知見として紹介しました。
言語から異なる文化や考え方を知ることができる
言語から異なる文化や考え方を知れるという点でも、幼児期の英語教育は重要です。海外の文化や考え方を知る際に、言語は基礎になります。言語と文化・考え方は相互にリンクしており、文化・考え方の理解を促進します。単に言語理解により海外の情報に触れやすいということだけが理由ではありません。
多様性への理解が求められる時代において、まずは言語から基礎作りをすることは、子どもが多様性を受け入れていく上でもポジティブな影響を与えるはずです。
幼児期における英語教育の弊害が主張される理由
ここまで幼児期における英語教育の重要性について解説してきましたが、幼児期の英語教育に反対する意見もあります。しかし、そういった反対意見で挙げられる理由は、幼児期の英語教育が原因ではなく、適切な教育がなされていないことが主な原因です。それぞれの理由について見ていきましょう。
若ければ若いほど外国語が習得しやすいと考えない人もいるから
まず、幼児期に英語を学習すると、英語を習得しやすいという考えを疑問視する声があります。大人になってから外国語の学習を始めて十分に習得できる人もいることを根拠に、若ければ若いほど外国語を習得しやすいという主張には科学的根拠がないとする声もあります。
しかし、大人になってから十分に外国語を習得できる人がいることと、一般的にどの時期に外国語が学習しやすいかは別の問題であると考えられます。
セミリンガル(ダブルリミテッド)になる可能性があるから
幼児期の英語教育の弊害としてよく挙げられるのは、セミリンガル(ダブルリミテッド)になる可能性があるということです。セミリンガル(ダブルリミテッド)とはバイリンガルになれず、第1言語も第2言語も中途半端にしか使えない人のことです。
一般に第2言語の能力は第1言語の能力を超えないとされています。まだ日本語の能力が十分でない幼児期に、英語学習に時間を割きすぎることによって、どちらの能力も中途半端になってしまうのではと懸念されています。
しかし、このセミリンガル(ダブルリミテッド)の問題は、英語教育が悪いというよりも、日本語学習のサポートが不足しているのが問題です。英語学習ができる保育施設に通うなら、家庭では日本語でもしっかり会話するなど、保護者と教育側の配慮が必要でしょう。
幼児期に英語を学習してもあまり身に付かない場合があるから
幼児期に英語学習をしても、忘れてしまうから意味がないのではという意見もあります。たしかに、幼児期に英語を学習できる施設に通っていても、小学校に上がると英語を忘れてしまったというケースもあります。
外国語の学習にはやはり継続が必要です。小学校に上がって、授業でたまに英語に触れるだけという環境になってしまうと、英語力は落ちやすくなります。子どもの英語の能力を維持するためには、幼児教育をするだけでなく、小学校以降の英語学習も視野に入れる必要があります。
継続すれば、学習のスタート時期による差は生まれるものと考えます。スポーツが、早く始めた方が有利であるのと同じではないでしょうか。